医学知識を伝える

「医者は健康に良い食べ物や生活の知識が豊富」というイメージは誤解だ

インターネットの沢山のサイトの中で「医師監修!」とつけながら健康に良い食べ物の効能や効果をつらつらと書いているサイトを見かけるといつも思うのですが、そもそもぶっちゃけて言うと「体にいい食べ物は?」とか「その効果は?」みたいなのに詳しい医者ってあんまりいないのです。

誤解のないように言うと、私は医者ブロガーさん達が書いていることや「医師監修」として記事を書いていることを批判したいわけではなくて、どちらかというと医者でブログ書いている人はもともと知ってることをつらつらと書いてるっていうよりは「ブログに書くためだけにめちゃくちゃ調べて書いてる記事が沢山ある」っていう努力を知ってほしい気持ちもありますです。

ただ、医者は「医学的に正しい情報を手に入れやすい」ことと、手に入れた情報を「医学的に正しいかどうかを判断する」能力は人よりあると思っています。

今日は「医者が健康情報に詳しいわけではない」という話を書きつつ、それでも医者が他の人に比べて情報を吟味しやすい理由を書いていきます。この辺りを知ってもらえれば、医学的知識はなくても巷にあふれかえる健康情報がいかにあてにならないか、そしてどうすれば本当に正しい情報が得られるのか、のヒントが分かってもらえるのではないかと思ったのです。

医者は健康に関する情報を意外と知らない

まず第一によく誤解されていることなのではっきり書きますが、普通に医者の仕事をしているだけだと、「病気になった人を治療する」ことに労力は集中しがちです。

勿論「病気になる前に予防する」のが理想であることは分かるのですが、これは医学の中でも「予防医学」とか別分野で、普通に病院で出会う「内科のお医者さん」はこの分野の専門家ではありません。

しかも「病気の予防」としての考え方なので、漠然と「健康に良いもの」と言われても困る感もあります。

ましてや「ダイエットに良いもの」に詳しい医者っていうのはもっとレアで、病的な肥満の人が健康的に痩せるための食事ならまだしも、近頃の女性を中心とした過度なダイエット志向は決して「健康に良いもの」とは言えない感があるので、「健康的な食事とは?」という質問以上に医者に聞くのはぶっちゃけ「専門外でしょ」感を感じるのです。

医学部では食事や栄養のことはほとんど習わない

そして普通に医学部での必要最低限な教育を受けるだけだと、あまり食べ物や栄養素のことって習わないのです。

人間の解剖学や生理学などは勉強するので、ある程度栄養素が体の中でどんな働き方をしているか、という知識はつきます。ただ、ここもぶっちゃけるとこの辺の分野は「基礎医学」って言われていて、いわゆる「心筋梗塞とは!」「脳梗塞とは!」「その治療は!」みたいな臨床医学分野と比べると日本では軽視されがちです。

アメリカの国家試験ではこの「基礎医学」のウエイトが比較的大きくなっているのですが、日本の国家試験では「基礎医学」の知識自体を問う問題はほとんど出ないので、みんなそこまで重視して勉強しません。その結果、自分の専門分野に関係する生理や生化学の知識は持っていても、「どのビタミンが体の中でどのような働きを持つのか」とかを聞かれて即座に答えられるお医者さんは意外と少数なのではないでしょうか…。

医者は他の人よりも健康情報は得やすい

じゃあ医者が書く健康情報に意味がないのかと言えばそうではありません。

やっぱり医者はベースの知識を活用すれば他の人に比べれば健康情報に関してはすごく信憑性の高い記事が書けると思います。

私がそう考えてる理由は3つ。

  1. ベースとなる医学知識がある
  2. 正しい情報を得る手段を知っている
  3. 迷信やイメージではなく情報を統計学的な判断が出来る

①はともかく、②と③は一般の人にも最低限ざっくりと知っておいてほしい知識だと思うのです。この知識があれば人昔前に流行っていた「発〇!あるある大事典」みたいな番組がいかに信用ならないかもわかると思うからです。

①ベースとなる医学知識がある

前述したように、あまり日本の医学部のシステムでは「生理学」や「生化学」などの基礎分野にウエイトが置かれてはいないのですが、それでもやっぱり他の人に比べれば最低限の医学知識のベースはみんな持っています。

巷で「〇〇がお肌にいい!」とか「〇〇を食べると痩せる!」とかいう情報が出ても、いや医学的に根拠ないでしょ、っていう判断が出来るくらいの知識は持っているドクターが多い。

有名なのは「コラーゲンを飲むとお肌にいい」みたいなイメージがありますが、コラーゲンを口から摂取しても腸管から吸収される時に全てアミノ酸に分解されます。それを体内でもう一度コラーゲンの形に合成するときの補酵素がビタミンCです。なので「コラーゲンドリンク」を摂取するのはあんまり意味が無くて、タンパク質とビタミンCを摂れば良いという話になりますね。

②正しい情報を得る手段を知っている

そしてもう一つ、医者は日ごろから「エビデンス」というものをすごく大事にします。日本語にすると、エビデンス=根拠という意味ですが、「〇〇が健康にいい!」と言った情報が出た時に「その根拠は何?」という思考が働きます。

ビジネスの世界では「誰かの経験談」はすごく役に立ちますが、医学の世界では「経験に基づく医療」は重要視されません。勿論、経験から始まって後に証明されて根拠を持つこともありますが、少なくとも「経験」の段階でとりあえずのtry&errorが許される学問ではないのはなんとなくご理解いただけるかと思います。。。

じゃあ根拠はどこから得るかと言えば主には「医学論文」です。医学論文は専用のデータベースにほとんどが保存されていて、例を挙げると医者の間ではPubMedと言えば有名な医学論文データベースです。このPubMedが使えない医者は潜りと言われても仕方ないくらい、ほとんどのドクターはこのデータベースを利用できます。

医学書を読んだりガイドラインを見たりをする以外に、最新の情報は医学論文を検索するのです。

多くは患者さんの治療にかかわるものなのですが、健康のための食事法などに関する論文もたまにあります。

例えばオリーブオイルやナッツを沢山食べる地中海の食事は健康に良いという説があるのですが、オリーブオイルやナッツを多く摂ることで脳卒中や心筋梗塞のリスクが減るという論文

オメガ3脂肪酸が体に良いと言われていますが、魚をたくさん食べると乳癌になるリスクが下がるという論文

全ての医学論文が十分な根拠を持っているわけではないのですが、その研究の方法や統計学の使い方などで論文の内容に「根拠の重みづけ」をします。「エビデンスレベル」と言ったりしますが、「この情報はどの程度効果が確立されているのか?」というのを段階的に表現するのです。

そしてこの重みづけはどうやって決まるかと言えば、次で説明する統計学の考え方がとても重要になります。人が見た目で「効果がありそう」という判断ではなく、「偶然の産物ではなく、確かにこの食品の効果である」ということを確率的に計算するのが統計学だからです。

③迷信やイメージではなく、情報を統計学的に判断できる

医学の世界では例えば「ある治療が効果がある」ということを言うためには数人に試して効果があるというだけでは全くもって不十分で、いくつもの実験を施設を変えて繰り返したりして初めて「効果がある可能性が非常に高い」とされます。

とは言ってもすべての新しい治療法について「効果がある」と言い切るまで実験をすることは不可能なので、「効果がある可能性がある」くらいのところで実際に使われ始めたりはします。

この効果があるかどうかを判断しているのは統計学です。ある程度医者をやっていると程度の差こそあれ最低限の統計学の知識は必要になってきます。

というわけでここに私たち医者が持っている「あるものに効果があるのかどうか?」を考える時の統計学の超基本的な考え方を書こうかとも思ったのですが、長くなりそうだったので記事を分けようと思います(;^ω^)

次回記事にご期待ください…。

理論的に効くはずのものは実際に効果がある?

最後に付け加えておきたいのは、「理論上は〇〇に効果があるはず」とされていても、人間の体に実際に使って効果があるかどうかは別問題なのです。

例えば「ある成分を脂肪と一緒に試験管の中に入れると脂肪を分解する」という実験結果が得られたとして、じゃあその栄養素を摂れば痩せられるかはまた別問題です。そもそも口からの摂取でその栄養素はちゃんと効果のある部位まで吸収されて届くのか、実際にその栄養素が体の中でどのような経路でどのように働くか、は理論とは別問題なのです。

人間の体は思っている以上に複雑です。

医学研究の場合は、基本は理論的に「効くはず」と思われているものを用いてそれが本当に人に効果があるのかを研究するわけですが、実際にやってみると「効果がない」ということはザラです。厳密には「効果がない」ということを証明するのも難しいので、「効果がある可能性は低い」くらいの結論になることが多いです。

まとめ

ツイッターで少し話題になったので、医者の健康知識の話をまとめてみました。

医者は健康になるための食べ物、とかそういったものに詳しいわけではないのです。

だけどこうした情報を得るための手段、検索方法を知っていること、調べた情報を医学的に正しいかどうかを判断するための医学的知識や調べる手段を持っていること、更に「効果がある」というのがどの程度のものなのかを判断できる論理的な根拠(統計学的な考察)を知っているというのが一般の人に比べた場合のアドバンテージかなとは思っています。

みなさまの参考になれば嬉しいです。

ABOUT ME
エイミー
手術室にこもって麻酔かけてるお医者さん。投資や経済学に興味があって、仮想通貨やブロックチェーンなどのテック系にも興味があります。書きたいことをつらつらとブログに綴る雑食趣味ブロガーです(*´艸`)最近は医療系ブロックチェーンの解説とかもしてます。 詳細プロフィールはこちら Twitterも→Follow @amy_honobono